宇宙シミュレーションは、数十億年にわたる銀河の成長を目に見える過程に変えます。IllustrisTNG は初期宇宙の物質分布から出発し、暗黒物質、ガス、恒星、ブラックホール、磁場の進化をまとめて計算します。TNG50 の研究と公式映像は、ガスが集まって恒星が生まれ、流入とフィードバックの作用で銀河円盤が形づくられる様子を示しています。

要点

  • IllustrisTNG は AREPO コードを使い、暗黒物質、ガス、恒星、超大質量ブラックホール、磁場を同時に追跡して仮想宇宙の銀河進化を計算します。
  • 研究チームの TNG50 映像は、一つの銀河が乱流状態のガスから秩序ある円盤を築く過程を示します。現在の宇宙に達した時点で、その質量はアンドロメダ銀河に近くなります。
  • 恒星とブラックホールのフィードバックは周囲のガスへエネルギーを戻し、流入し続ける物質とともに銀河の成長を調節します。
  • モデルは観測統計を使って較正・検証され、銀河集団の傾向を説明します。ただし、小さなスケールの物理には近似が必要です。

周囲からガスが流れ込み、小さな構造が互いに近づいて合体し、中心にはやがて回転する円盤が現れます。スーパーコンピューターは数十億年に及ぶ銀河の成長を連続した映像に変え、宇宙環境の中で一つの銀河が形づくられる様子を見せてくれます。IllustrisTNG の研究と公開映像は、この長い歴史を、追跡・分析し、観測と比較できる物理過程として描いています。

まず物質が進化し、銀河が姿を現す

IllustrisTNG は広大な仮想宇宙を構築し、赤方偏移 z=127 の初期状態から z=0 まで計算を進めます。暗黒物質の重力と、ガスの流れ、冷却、磁場を同時に追跡し、恒星形成、化学元素の生成、ブラックホールの成長とエネルギーフィードバックも組み込みます。こうした過程の相互作用から、銀河の形が徐々に生まれます。

暗黒物質がつくる構造は重力の骨組みとなり、ガスは宇宙の大規模構造に沿って密度の高い領域へ集まります。冷えたガスは恒星形成の材料となり、回転、降着、合体が銀河の大きさや形を変え続けます。どのような成長の歴史が円盤を残し、どのような相互作用が銀河の姿を変えるのか。研究者はその答えを探っています。

乱流状態のガスから円盤が育つ

研究チームによる TNG50 の公式映像は、「g1」と呼ばれる銀河を追跡しています。初期には乱流状態のガスの中で恒星が急速に生まれ、赤方偏移が約 2 まで下がった後、ガスはより整った円盤を徐々に形成します。その後は大規模な合体が少ない比較的穏やかな成長が続き、恒星のフィードバックと周囲からのガス流入が次第に釣り合うようになります。現在に相当する時点で、この模擬銀河の質量はアンドロメダ銀河に近くなります。 本銀河群のシーンでは、アンドロメダ銀河と近隣銀河の空間分布を参照できます。映像の g1 はシミュレーション上の事例です。

この事例は、TNG50 による銀河集団の研究とも一致します。モデルは宇宙の時間が進むにつれて、恒星を形成する銀河のうち円盤形態を持つものの割合が増えると予測しています。TNG50 の高い解像度により、チームは一つの美しい成長物語を見るだけでなく、多数の銀河の厚さ、形、回転を同時に調べられます。

王立天文学会の公式 TNG50 銀河進化映像(2019 年 11 月 7 日公開、1 分 59 秒)。主画面はガス密度を、小窓は暗黒物質、ガス、恒星の分布を示します。映像:D. Nelson / IllustrisTNG team。

銀河はガスを取り込み、外へも押し出す

成長の間、物質は流入し続け、エネルギーも外へ伝わり続けます。超新星と、物質を降着させている超大質量ブラックホールは、周囲のガスにエネルギーを与え、銀河規模のアウトフローを生みます。この「フィードバック」はガスを加熱し、一部を銀河の外へ押し出すことで、その後の恒星形成に使える燃料を変化させます。

TNG50 の別の研究は、こうしたアウトフローを詳しく分析し、ブラックホールと恒星のフィードバックがともに銀河周辺のガスを形づくる様子を示しています。流入と流出を合わせて見ると、銀河は環境と絶えず物質を交換する系だと分かります。円盤の形成も恒星形成の速さも、この交換と関わっています。

仮想銀河を実際の空で検証する

IllustrisTNG は、観測された銀河の質量分布や大きさ、ブラックホールと母銀河の関係、宇宙の恒星形成史などの統計を使ってモデルを較正し、さらに別の観測で予測を検証します。計算は銀河集団のさまざまな特徴を再現すると同時に、モデルと実際の宇宙との違いを見つける手がかりにもなります。

シミュレーションの空間・質量解像度には限界があります。恒星が生まれる過程やブラックホールの近くの一部の詳細は、より小さなスケールの研究と観測に支えられた近似モデルで扱う必要があります。注目したいのは、渦状腕がどう現れるかに加え、同じ物理が多くの異なる銀河を同時に説明できるかどうかです。仮想宇宙に実際の空と似た構造が育つことで、銀河がなぜ現在の姿になったのかを、より具体的に検証できます。

銀河の成長を支える物質の循環

下の図は、物質の交換を一つの循環として整理しています。青いガスは周囲から銀河へ流れ込み、恒星形成の燃料を補給します。金色のガスは恒星とブラックホールのフィードバックによって押し出され、円盤の上下に広がります。一部の流出ガスは減速し、薄紫色の弧に沿って銀河の外縁へ戻り、「銀河噴水」を形成します。こうした往復の流れがガスを再分配し、銀河円盤の成長と相互に影響します。色、矢印、比率は過程を区別するための模式表現で、特定の時刻の正確な値を示すものではありません。

中心の銀河円盤へ青いガスが流入し、金色のアウトフローが上下へ広がる。薄紫色の弧は一部のガスの戻りを示す
青い流入はガスを供給し、金色の流出はエネルギーと物質を銀河の外へ運びます。薄紫色の弧は一部の物質が戻る銀河噴水の循環を示します。矢印は方向を、色と比率は過程の違いを模式的に表します。