大型ハドロン衝突型加速器では、マイクロメートル級の塵が陽子ビームに入って起きる短時間のビーム損失が以前から記録されている。2人の物理学者は、その一部が周囲の岩盤を通過するアクシオン・クォーク・ナゲットによって誘発される可能性を提案した。この種のダークマターは検出されていないが、リング各所の時間相関を調べればモデルを直接検証できる。

要点

  • LHCでいうUFOは、通常はマイクロメートル級の塵が陽子ビームに入ることで起きる突発的なビーム損失イベントであり、異星人の宇宙船を観測したという意味ではない。
  • Physical Review Dに掲載された2人の著者による論文は、質量約5~1,000グラムの反物質アクシオン・クォーク・ナゲットがLHCから約100キロメートル以内の岩盤を通過すると音響衝撃波を生じ得ると提案している。
  • 模型ではUFOイベントの約1~10%がこの機構で生じる可能性を見積もっているが、この割合は仮定に基づくものであり、研究はLHCデータからアクシオン・クォーク・ナゲットを特定していない。
  • 最も明瞭な指標は、リング上の互いに遠く離れた複数地点で約6ミリ秒~2秒以内に起きる相関UFOイベントである。通常の局所的な塵イベントでは、このパターンが生じにくい。
  • 計算では、2秒以内に3件の相関イベントがあれば、約360時間の測定で仮定した全質量域にわたり信号対雑音比が5を超える可能性が示された。ただし、岩盤による減衰、塵の分布、相関した背景事象は実データで検証する必要がある。

大型ハドロン衝突型加速器は、新粒子を探すために陽子を衝突させるだけでなく、巨大な地下聴診器として働くかもしれない。岩盤を通過する巨視的なダークマター候補が残す振動を聴くという発想だ。ブリティッシュコロンビア大学の物理学者Xunyu LiangとAriel ZhitnitskyはPhysical Review Dで、LHCの既存のビーム損失監視システムを使い、アクシオン・クォーク・ナゲット(AQN)が生む多地点イベントを探索することを提案した。

これはデータ検証を待つ模型であり、ダークマターの発見ではない。論文のAQNに関する仮定では、LHCの未確認落下物(UFO)イベントの約1~10%がこの機構に関係する可能性がある。著者らは、いずれかのイベントを確認済みAQN信号として選び出したわけではない。この提案の意義は、探索し、制限を与え、あるいは否定できる時間・位置パターンを定めた点にある。

衝突型加速器のUFOは塵の警報

LHCでは2010年以降、マイクロメートル級の塵がビームスクリーンの表面から剝がれ、帯電して陽子ビームに引き寄せられ、高エネルギー陽子と非弾性衝突を起こす短時間のビーム損失が記録されてきた。典型的なイベントは約0.1ミリ秒から数ミリ秒しか続かないが、ビームダンプを作動させ、超伝導磁石をクエンチさせることさえある。CERNの運用記録と実験研究から、塵による説明を支持する多くの証拠が蓄積している。一方、ビームスクリーン底部に付着した粒子の大半が最初にどう剝がれるのかは、まだ十分に分かっていない。

音響圧力波がLHCのビームスクリーンを通り、マイクロメートル級の塵1個を2本の陽子ビーム間へ剝がす様子
模型では近くのAQNが岩盤中に音響衝撃波を生む。波が先にビームスクリーンからマイクロメートル級の塵を剝がし、その粒子が陽子ビームに入って初めてUFOビーム損失が起きる。

LHCの全長27キロメートルのリングには、粒子ビームが軌道を外れた際に装置を守る約4,000台のビーム損失モニターが配置されている。1個の塵粒子がビームに入ると、通常は局所的なミリ秒規模のピークが残る。しかし、外部の機械的な擾乱が施設全体を通過すれば、互いに遠く離れたモニターがイベントを順に記録し得る。新たな提案は、この空間相関と時間相関の組み合わせに着目している。

巨視的候補が岩盤越しに塵を剝がす仕組み

AQNは、アクシオン場によって安定化された原子核密度のクォーク物質から成る仮想的な塊で、模型では物質型と反物質型が共存できる。従来型の弱く相互作用する重い粒子や個々のアクシオンを探す研究とは異なる。論文は質量約5~1,000グラムのナゲットを考える。体積は極めて小さいままだが、数と地球通過率は比較的低い。この機構が反物質AQNに注目するのは、地球へ入った後に通常物質と対消滅してエネルギーを放出できるためだ。

1つの音響擾乱がLHCビームラインに沿って進み、遠く離れた3台のビーム損失モニターが鋭いパルスを順に記録する様子
1つの音響波面がLHCの離れた地点で順に塵を剝がせば、3台のモニターは2秒以内に3つの相関パルスを残す。これが論文の主要な識別指紋である。

論文の音響模型では、反物質AQNが地下を高速で進むと、その経路に沿って衝撃波を生む。軌道がLHCから約100キロメートル以内を通れば、トンネルに届く圧力擾乱が一部の塵とビームスクリーンの付着力を上回り、塵を真空管内へ振り落とす可能性がある。その後に初めて塵が陽子ビームと相互作用し、見慣れたUFOビーム損失を起こす。つまり、この模型はダークマターが陽子ビームへ直接衝突すると考えているわけではない。

この因果関係には、AQNの質量とフラックス、岩盤中での対消滅エネルギー、音響圧力と周波数、岩盤伝播時の減衰、ビームスクリーン上の塵の大きさ・位置・付着力など複数の推定が含まれる。論文も、固体内の音響吸収は複雑であり、弱い減衰という仮定には実験的な較正が必要だと認めている。したがって、塵を剝がせるという計算は、装置がすでにこの機構を測定した証拠ではない。

2秒以内にリング全体へ広がる指紋

局所的な塵源は通常、近くの区間しか影響しない。一方、模型のAQN由来の音響波は、直径約8.5キロメートルのLHCリングを横切り得る。そこで著者らは、リング上の離れた地点で約6ミリ秒~2秒以内に複数のイベントが起き、到達時刻の差が波の方向とモニター間距離に整合する「UFOバースト」を探すよう勧めている。この長距離・短時間の相関は、単独のビーム損失よりも偶然の背景事象を除きやすい。

研究は、通常のUFOイベントが1時間当たり10件以下という保守的な背景率と、1日約12時間のLHC運転を仮定した。計算によると、約360時間分のデータでは、2件の相関イベントが強く特徴的になるのは比較的重いAQNに限られる。同じ2秒枠内に3件の相関イベントがあれば、論文で用いた全質量域にわたり信号対雑音比が5を超える可能性がある。これらは模型の検出感度の予測であり、すでに達成された実験的有意度ではない。

LHCの既存モニターを使えば、新たな大型ダークマター検出器を造らずにこの検証ができる。ただし信頼できる解析には、装置の状態、塵の活動、その他の振動背景を考慮する必要がある。著者らは、ビーム損失をCERNの地震観測網、分布型音響センシング、超低周波音データと照合することも提案している。異なるシステムで到達時刻が整合すれば、共通の波面と局所的な機械雑音を区別しやすくなる。

既存モニターに新しい問いを投げかける

最も直接的な次の一歩は発見を宣言することではなく、明示的な選別基準でビーム損失記録を再解析することだ。2秒以内に異なる領域で起きたUFOを見つけ、その位置が1つの伝播波面と一致するかを検証し、地震・音響背景を確認する。予想される候補の割合が見つからなければ、逆にデータからAQNの質量分布、フラックス、音響結合に制限を与えられる。

この提案が魅力的なのは、装置の安全のために構築されたセンサーネットワークを、素粒子物理学と宇宙論の境界にある巨視的ダークマター模型の検証へ転用する点だ。ただしAQNは仮説上の存在で、音響伝播と塵の剝離には大きな不確かさがある。既知の運転背景を除去し、独立した検出系で一貫した信号を見つける透明な解析があって初めて、この地下聴診器が聴いた異常をダークマターの証拠へ近づけられる。